検査で不妊の原因が特定できる「器質性不妊」とは?

女性不妊で、検査で原因が明確に特定できる不妊を「器質性不妊」といいます。

一般の婦人科や高度生殖医療専門クリニックで不妊検査をうけて、明らかな不妊の原因が見つかり診断可能な場合を(器質性)不妊と言います。 女性の器質性不妊には、具体的にどのような原因があるのでしょうか?

女性の器質性不妊とは?

器質性不妊は、おもに婦人科系臓器の明らかな病気が原因です

不妊治療は、まず、排卵→受精→分割→着床という一連の流れのどこでつまずき、何が原因となっているのかを明確にするために検査をします。また、受精には精子が不可欠ですから、夫婦がそろって検査を受ける必要があります。
検査をして明らかに診断可能な女性不妊の原因は、

  1. 排卵に問題がある「排卵因子」
  2. 卵管に問題がある「卵管因子」
  3. 子宮に問題がある「子宮因子」
  4. 子宮頸管に問題がある「頸管因子」

の4つに大きく分けられます。

不妊の原因としてもっとも多いのは、原因が明らかでない機能性不妊の49.3%ですが、その次が卵管因子(卵管通過障害31.2%)、そして排卵因子(排卵障害9.8%)です。
不妊検査を行って、明らかに不妊の原因が診断できるのは、全体のおよそ50%です。

妊娠を妨げる明らかな原因

器質性不妊の代表的な疾患を解説します

1)排卵に問題がある「排卵因子」

卵胞が育たない、あるいは育っているのに排出できないなど、排卵が正常に行われないために起きる不妊を「排卵因子」の不妊といいます。若い女性でも、何らかの原因で卵巣内の卵胞がほとんど消滅する「早発閉経症」もその一つです。

  • 視床下部性排卵障害
  • 高プロラクチン血症
  • PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)
  • 黄体機能不全

など

2)卵管に問題がある「卵管因子」

卵子と精子の通り道である卵管は、受精と分割がおこなわれる大切な場所です。この卵管が閉塞していたり、炎症が起きていると、卵子と精子と出会うことができません。このように卵管に問題がある不妊を「卵管因子」の不妊といいます。

  • ピックアップ障害
  • 卵管通過障害(卵管閉塞、卵管狭窄、卵管癒着など)
  • クラミジア感染症

など

3)子宮に問題がある「子宮因子」

子宮は、膣内に射精された精子が卵管にむかって泳いでいくときに通過する場所であり、着床の場であり、そして妊娠成立後には赤ちゃんを栄養して育てる大切な場所です。子宮に何らかの問題がある場合、受精卵がうまく着床できなかったり、着床しても維持できないなど、不妊の原因となります。このような子宮に問題がある不妊を「子宮因子」の不妊といい、主に着床障害の原因となります。

  • 子宮筋腫
  • 子宮腺筋症
  • 子宮奇形
  • 子宮内膜ポリープ

など

4)子宮頸管に問題がある「頸管因子」

膣と子宮腔をつなぐ子宮頸管は、排卵期に頸管粘液を分泌して精子を通過しやすくする機能があります。通常、膣内は細菌の侵入を防ぐため酸性に保たれていますが、排卵期にはアルカリ性の粘液(=おりもの)を分泌し、精子の運動を助けます。その分泌量が足りないと精子が子宮腔へと泳いでいくときの妨げとなり、「頸管粘液分泌不全」といいます。
また、頸管粘液の中に、精子を異物として認識して攻撃してしまう「抗精子抗体」があります。このような免疫反応を原因とする不妊は、「免疫性不妊」と呼ばれる場合もあります。

  • 頸管粘液不全
  • 抗精子抗体

など

5)その他の問題

不妊を引き起こす原因は、この他にもあります。精神的・肉体的な理由で性交できない「性行為障害」や、子宮内膜によく似た組織が子宮内膜以外の場所で増殖する「子宮内膜症」などです。
最近では不妊症の女性には、子宮内膜症を抱えている人も多いと言われています。

  • 子宮内膜症(チョコレート嚢胞)
  • 性行為障害

など

視床下部性排卵障害 (排卵因子)

脳から分泌される刺激ホルモンの異常で起きる疾患です

脳の視床下部から性腺刺激ホルモン放出ホルモン(ゴナドトロピン放出ホルモン)の分泌の乱れや十分な量が分泌されないと、下垂体からの性腺刺激ホルモンの分泌に影響し、卵巣の卵胞発育が悪くなり、月経はあっても排卵しない無排卵周期症や、月経そのものがない無月経症などを引き起こします。

症状生理不順
無月経
検査方法血液検査
治療方法主に薬物治療

高プロラクチン血症 (排卵因子)

乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)の分泌異常で起こる疾患です

脳の下垂体から分泌される乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)の量が増えてしまい、排卵がしにくくなる病気です。 プロラクチンは出産後には乳腺を刺激して赤ちゃんのお乳を出す働きをしますが、妊娠していないのに過剰に分泌されると排卵障害による不妊の原因になります。

症状無症状
生理不順
無月経、無排卵月経
乳首をつまむと乳汁や白いカスが出る
検査方法主に血液検査
治療方法薬物治療

PCOS(多嚢胞性卵巣症候群) (排卵因子)

卵胞が未熟なまま成長せず、排卵しにくくなる病気です

卵巣でたくさんの卵胞が存在し、1つ1つの卵胞が十分に大きく育たない状態で、卵胞の成熟も排卵も、しにくくなります。 男性ホルモンの過剰な分泌で多毛になったり、インスリン抵抗性による肥満にもなりやすいです。

症状月経異常
無月経
肥満
多毛、ニキビ
声が低くなる
検査方法血液検査
超音波検査
治療方法主に薬物療法

黄体機能不全 (排卵因子)

黄体機能が不十分だと着床に影響します

排卵後、卵胞が変化してできる黄体からのホルモンが少なかったり、黄体の存続が短縮するなど、黄体機能が不十分な状態です。黄体ホルモンが不十分だと、子宮内膜が厚く形成されなかったり、維持できないため、着床しにくくなります。うまく排卵できないと黄体が誘導されないため、排卵障害の結果として起きると考えてよいでしょう。

症状基礎体温の高温期と低温期の差が小さい
高温期が不規則
高温期の日数が短い
検査方法基礎体温をつける
血中プロゲステロン測定
子宮内膜組織診断
治療方法薬物治療(HCG(絨毛性性腺刺激ホルモン)注射)

ピックアップ障害 (卵管因子)

卵管采が卵子をキャッチできず卵子が卵管に入れない障害

卵管采は手のヒラを広げたような形をしていて、排卵した卵子が卵管に取り込まれます。卵管采に形態異常があったり、癒着で動きが悪くなったりなどから、卵子が卵管の中に入れなくなります。

症状なし
下腹部痛
検査方法腹腔鏡検査
治療方法手術

卵管通過障害 (卵管因子)

卵管が閉塞したり、狭くなっているため精子と卵子が出会えない状態

細菌感染や内膜症、癒着などから、卵管が狭くなったり塞がったりする病気です。左右の卵管が完全に閉塞してしまうと、精子や卵子が卵管を通ることができないため、自然妊娠はできなくなります。卵管を通りやすくする卵管形成手術を行うか、体外受精などの高度生殖医療が必要になります。

症状なし
下腹部痛
検査方法子宮卵管造影検査
通水検査
治療方法卵管形成手術(腹腔鏡手術、卵管鏡手術)
子宮卵管造影検査(軽度の卵管狭窄の場合)

クラミジア感染症 (卵管因子)

ポピュラーな性感染症です

クラミジア・トラコマティスという病原体が性行為によって感染します。子宮から卵管を経て腹腔内にも炎症が及ぶことがあり、卵管閉塞や癒着の原因となります。女性は子宮頸管炎などから腹痛を起こす場合もありますが、感染しても多くは自覚症状がないとされ、発見が遅れがちです。

症状自覚症状なし
腹痛
おりものが増える、臭い
検査方法血液検査(抗体検査)
抗原検査
治療方法薬物治療

子宮筋腫 (子宮因子)

子宮の筋肉にできる良性のこぶのような腫瘍です

子宮筋腫は、30~40代の女性の数人に1人は持っているといわれますが、その原因は分かっていません。子宮筋腫があっても必ずしも妊娠できないわけではありませんが、筋腫の場所や大きさによっては不妊の原因になります。

症状過多月経
不正出血
腹痛
頻尿
検査方法超音波検査(内診)
MRI
治療方法主に薬物療法
腹腔鏡手術
子宮鏡手術

子宮腺筋症 (子宮因子)

子宮内膜の組織が子宮の壁(筋層)で増殖する病気です

子宮内膜症の一種で、月経周期ごとに増殖と出血を繰り返し、子宮の壁を厚く硬くするので、受精卵の着床や妊娠の維持に影響をきたすことがあります。

症状無症状
激しい月経痛、骨盤痛
生理期間以外の腹痛(性交痛、排便痛)
検査方法内診
超音波検査
血液検査
MRI
腹腔鏡検査
治療方法薬物治療
切除手術
子宮全摘出(重傷の場合)

子宮の発育不全・子宮の奇形 (子宮因子)

子宮が小さかったり、奇形がある状態です

子宮の形が生まれつき異常な場合(重複子宮、弓状子宮、単角子宮など)や、後天的な発育不足で通常より小さい状態です。不妊の原因となっていると考えられる場合は、治療をすることがあります。

症状無症状
無月経
下腹部痛
流産
検査方法内診
超音波検査
子宮卵管造影検査
子宮鏡検査
治療方法薬物治療
手術

子宮内膜ポリープ (子宮因子)

子宮内膜にできる良性の腫瘍です

女性ホルモンの刺激によって、内膜が過形成されできる良性の腫瘍です。場合によっては受精卵が着床する妨げになることもあるため、切除手術が有効ですが、取ってもまた再発することがあります。

症状無症状
過多月経
検査方法超音波検査
子宮鏡検査
治療方法子宮鏡手術

子宮内膜症(チョコレート嚢腫)

子宮内膜が子宮内膜以外にできる病気

本来は子宮の内側にあるはずの子宮内膜が、子宮内膜以外の部位にできる病気です。卵管にできると、卵管機能障害が起こったり、卵巣にできると卵子の成長や排卵の障害になります。ホルモン治療や手術が治療の中心となります。

症状無症状
激しい月経痛
下腹部痛(性交痛、排便痛)
生理不順
検査方法内診
血液検査
超音波検査
MRI
腹腔鏡検査
治療方法薬物治療
腹腔鏡手術

頸管粘液分泌不全 (頸管因子)

頸管粘液の分泌が不足する疾患

排卵期に子宮頸管から分泌される頸管粘液は、精子が子宮に入りやすくする働きをしています。その分泌量が不十分だと、精子が子宮腔へ上昇して泳いでいく際の妨げになります。
クロミッドを長期間服用した場合や、子宮頸管に炎症がある人に多い症状です。

症状無症状
検査方法頸管粘液検査
フーナーテスト
治療方法薬物療法

抗精子抗体 (頸管因子)

精子を異物として攻撃する疾患

およそ100人に1人の割合で、頸管粘液の中に精子を異物と認識して攻撃する「抗精子抗体」が存在する場合があります。抗精子抗体があると、精子は動きが悪くなったり、全く動けなくなるため、子宮腔まで進めなくなり、妊娠しにくくなります。抗体価を下げる治療をする場合もありますが、ほとんどのケースでは高度生殖医療を薦められます。

症状無症状
検査方法血液検査
治療方法コンドーム法
薬物療法

上記の婦人科疾患は、一般的な婦人科クリニックでも診療が可能です。