【2023年度版】法令改正で不妊治療の保険適用範囲が拡大

出産を望む夫婦の経済的負担をできるだけ軽減すべく、2022年4月の法改正にて不妊治療の保険適用範囲が拡大されました。この記事では、不妊治療の保険適用化の概要や条件、注意点などについて解説していきます。

令和4年は合計特殊出生率(人口に対して生まれた子供の数を表す指標のひとつ)が1.26と前年の1.30より低下して過去最低となりましたが、少子化の要因として挙げられているのが、晩婚化と経済的理由と言われています。

とくに女性の場合は35歳を過ぎると妊娠の可能性が右肩下がりになっていくため、晩婚化と不妊治療には相関関係があるとされています。ところが不妊治療のうち、高度生殖補助医療(ART)に分類される不妊治療は自己負担する治療費が高額であるため、継続して不妊治療を受けることは難しいというのが実情でした。

しかし、そんな不妊治療を取り巻く環境にも変化が表れ始めています。ニュースでも取り上げられていましたが、コロナの影響もあって妊娠・出産を控える傾向があった2020年と比べると、2021年には体外受精により生まれた子どもの数が約69,797人と過去最多を記録。計算上は1年間に生まれる子どものうち、約11人に1人が体外受精により生まれていることになります。

不妊治療として体外受精を行った件数は延べ49万8140件で、2020年から約4万8000件増えて、こちらも過去最多を記録しています。

不妊治療の保険適用範囲が拡大したことによってどのようなメリットがあるのか、以下でもう少しくわしく見ていきましょう。

参照元:厚生労働省不妊治療保険適用リーフレット(PDF)

https://www.mhlw.go.jp/content/leaflet202212ver2.pdf

参照元:NHK WEB「おととし実施の体外受精で約6万9800人の子ども誕生 過去最多に」

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230831/k10014179781000.html

不妊治療の保険適用範囲が拡大された社会的背景

高額とされていた不妊治療の保険適用範囲が拡大された社会的背景には、「晩婚化」、「出産年齢の上昇」、「不妊治療件数の増加」、「社会的要因(仕事と不妊治療の両立)」、そして「経済的要因(費用負担大)」といった5つの要因があります。

まずは、女性の社会進出とともに、晩婚化が進み、結婚したとしても子どもを授かるのはもう少し先でいいといった出産年齢の上昇は、少子化をはじめとした社会問題にもなっています。どうしても女性は年齢と共に妊娠するための力が低下するため、晩婚化や出産年齢の上昇は少子化の一因ともなっています。

また、晩婚化や出産年齢の上昇が影響し、不妊治療を受ける人が増加。当時は珍しかった体外受精も普通に行われるようになり、生殖補助医療で出生した新生児数も増加傾向にあります。さらに、不妊治療自体は普及してきたものの、仕事との両立が難しいといった社会的要因にくわえ、高額な治療費が経済的負担となってきたのです。

このような状況を打破すべく、2004年にはじまったのが不妊に悩む方への特定治療支援事業。この制度を利用することで、以前よりは経済的負担は軽減したものの、まだまだ費用が高額で不妊治療を諦める夫婦も少なくありませんでした。

その要因のひとつとも言えるのが、日本の医療行為には原則、混合医療が認められていないという点です。混合医療とは保険診療と自由診療を同時に受けられる仕組みのことですが、たとえば不妊治療の場合はひとつでも自由診療の治療を受ければ、初診にさかのぼって患者の全額負担となってしまいます。

不妊治療の当事者たちを支援するNPO法人Fineが実施したアンケート調査(2022年7月~10月 約2000人を対象に実施)によれば、

  • 3割負担(保険診療) 47%
  • 3割負担(保険診療)+10割負担(先進医療) 28%
  • 10割負担(自由診療)25%

という結果が出ており、8割弱が保険診療の恩恵を受けているようにも見えます。ただし実際には保険適用範囲の拡大に伴い各自治体が実施してきた不妊治療の助成金がなくなり、かえって自己負担額が増えるケースなども出てきています。

保険診療が適用される治療法にはさまざまな制限が設けられているため、自分が受けたい治療と保険診療がマッチせず、自由診療を選択せざるを得ないというケースも少なくないようです。

参照元:日テレNEWS「患者&医療現場のホンネを深掘り…【不妊治療の保険適用】みえてきた新たな課題は」

https://news.ntv.co.jp/category/society/23b1d341b7f84b17ac90711a91b5b755

人工授精で保険適用を受けるとどうなるか

人工授精(AIH)は、洗浄および濃縮した夫の精子を妻の排卵時期に合わせて子宮内に注入する不妊治療法で、受精から妊娠までの過程に関しては自然妊娠と同じです。身体への負担が少ないため、いちばん最初に受ける不妊治療のひとつです。

この人工授精の費用を、自費診療と保険適用で比較してみるとどうなるのでしょうか。

まず、保険適用の場合は3割負担で5,460円。このほかに初診料や薬代、注射代などがかかります。目安として15,000円程度がかかります。一方で自由診療の場合は平均で30,000~50,000円ほどかかりました。

保険診療のみで治療できれば、以前よりかなり費用を抑えることができます。

体外受精で保険適用を受けるとどうなるか

体外受精は、採卵(卵巣から卵子を取り出す)と胚移植(精子と受精させて培養し、受精卵を胚まで発育させてから子宮に戻す)の2ステップで行われます。

受精卵を着床直前まで成長させ、受精卵(胚)として子宮内に注入することで、妊娠率が高いのがメリットですが、人工授精よりも高額な費用がかかってしまいます。

まず保険適用で体外受精をする場合は、採卵や受精、培養や凍結胚移植、検査代や薬代などを含めて約200,000円。自由診療の場合は、同じ条件でも約700,000円かかってしまいます。

参照元:はらメディカルクリニック公式サイト スタッフコラム・ブログ「【保険適用後】不妊治療の費用はどれくらい?妊娠の確率を少しでも上げる方法についても紹介」

https://www.haramedical.or.jp/column/staff/treatment_expense.html

高額療養費制度を活用すれば一定額の支払いが免除される

保険が適用される不妊治療の場合、高額療養費制度の活用によって一部治療費の払い戻しを受けることができます。1か月に支払う医療費の自己負担額の上限(自己負担限度額)を超えた額が払い戻される制度です。

マイナ保険証を利用する方法と「限度額適用認定証」を利用する方法があります。この制度は保険診療のみに適用されるもので、月の所得区分ごとに自己負担額の計算式が決まっています。

この制度は個人単位・月単位で利用するものになりますので、くわしく知りたいかたは下記全国健康保険協会の公式サイトなどをご覧ください。

参照元:全国健康保険協会公式サイト「高額な診療が見込まれるとき(マイナ保険証または限度額適用認定証)」

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3020/r151/

不妊治療の保険適用の条件

不妊治療を保険適用で利用する条件は、対象年齢、保険適用回数、婚姻関係の確認の3つがあります。以下で確認していきましょう。

43歳未満の女性にしか保険は適用されない

まずひとつ目は、はじめての治療開始時の妻の年齢が43歳未満であることです。女性は、年齢を重ねるほど妊娠しづらくなるため、43歳未満というボーダーラインが引かれています。

ちなみに、男性に関しては、年齢制限はありません。妻の年齢のボーダーラインがあるため、不妊治療を検討していている方で42歳の方などは、早急に不妊治療を検討する必要があります。

2020年度の不妊治療助成金事業の利用者に関するデータでは、不妊治療を受ける年齢のピークは39歳だったといいますが、保険の適用範囲が広がった2023年から2024年の統計データにはなんらかの変化が表れているかもしれません。

参照元:東洋経済ONLINE「データが示す「日本の不妊治療」知られざる実態」

https://toyokeizai.net/articles/-/541517

治療開始時の年齢で変わる保険適用回数

2つ目は、保険適用を受けられる回数の制限です。こちらも、はじめての不妊治療を受ける際の妻の年齢によって2パターンに分かれます。

40歳未満の場合、一子ごとに通算胚移植の回数は6回まで 。40歳以上43歳未満の場合は、一子ごとに通算胚移植3回までしか受けられません。 また保険適用は一子ごとなので、一度不妊治療において保険適用を受けたとしても、第二子場合、申請も可能です。

あくまでも、胚移植の回数で計算することから、過去の不妊治療実績や助成金利用実績などの影響はうけません。 つまり、少しでも若いうちに不妊治療を始めた方が、胚移植できるチャンスが多いということです。

法律婚と事実婚の確認

3つ目は婚姻関係の確認です。婚姻関係も多様化してきているため、以下のいずれかに該当しており、その事実を証明できる書類などを提出することで、保険適用してもらうことができます。

  • 法的婚姻関係にあること
  • 事実婚であること

なお、婚姻関係を証明する必要書類はクリニックによって異なることもあるため、事前に確認することをおすすめします。