Q1. 不妊治療中に子宮内膜症の手術を行なうべき?

Q.不妊治療中です。子宮内膜症と診断されましたが、妊娠のためには手術したほうが良いのでしょうか?

不妊治療のために検査を受けてみたところ、子宮内膜症であることが分かりました。

チョコレート嚢腫というものです。嚢腫は3cm弱ということで、さほど大きくはありません。もしこのまま不妊治療を続けるとしたら、手術したほうが良いのでしょうか? また子宮内膜症についても、詳しく教えてください。

病巣が小さいので手術には慎重に。嚢腫を切除することによって卵巣機能が低下する恐れもあります。

病巣が小さいので手術には慎重になりましょう腫瘍の大きさが3cm弱ということなので、病巣としては大きいほうではありません。妊娠を望む場合には子宮を傷付けないことが大切なので、手術を検討する際には慎重になりましょう。

一般にチョコレート嚢腫の治療は、嚢腫が片方の卵巣だけに発生していて、なおかつ大きさが3~4cm以下の場合には手術を行ないません。よって妊娠に向けては手術を選択せず、すぐに不妊治療を進めるべきです。

不妊治療は、多くの場合、排卵誘発剤を使った人工授精となります。

チョコレート嚢腫が大きくなったら手術を

現在のチョコレート嚢腫が拡大して5cmを超えたり、または5cmに満たなくても急速に拡大していたりした場合には、保存的手術での治療を検討します。

保存的手術の方法は2種類。開腹手術と腹腔鏡手術です。手術によって嚢腫を切除したり、癒着をはがしたり、電気やレーザーで焼いたりなどして、病巣を取り除きます。なお保存的手術から2年後の妊娠率は、嚢腫が軽症の場合で60%、重症の場合で30%。術後の再発リスクというデメリットもあります。

手術を受けたくない人にはアルコール固定という方法もあります

嚢腫が重症化した場合、または進行型の場合で、どうしても手術を受けたくないという患者さんには、アルコール固定という処置を行なうことが可能です。嚢腫の内容物を除去したうえで、そこにアルコールを注入。アルコールの力によって病巣の細胞を壊死させる治療法です。

アルコール固定では卵巣を切除することがないため、卵巣機能の低下はほとんどありません。ただし再発の可能性がとても高いため、積極的にお勧めできる治療法とは言えません。応急処置と考えましょう。

子宮内膜症には少なくとも5種類があります

子宮内膜は、その名の通り子宮の内側にしか存在しません。ところが、この子宮内膜に似た組織が、子宮外の様々なところに発生してしまうことがあります。この症状を子宮内膜症と言います。

子宮内膜症は、月経のある女性の数%~10%ほどが患っているとされ、最近では主に20~40代の女性に増えています。日本子宮内膜症協会によると、質問者様が診断された「チョコレート嚢腫」の他に「子宮腺筋症」「深部子宮内膜症」など、少なくとも5種類があると言われています。

月経痛などの様々な症状。不妊の原因にも

子宮内膜症の主な症状としては、重度の月経痛や月経時の腰痛などがあります。また月経の量が多く、かつ期間が長い傾向もあります。

下腹部痛が慢性化したり、性交痛が見られたリすることもしばしば。一方で自覚症状がなく、不妊治療などで偶然発見されるケースも少なくありません。また病巣が卵巣や卵管に生じると、不妊の原因にもなります。不妊症治療中の患者の30~40%には子宮内膜症が確認されるとの報告もあります。

手術にはリスクが伴います

卵管などへの病巣の癒着が進行している場合、たとえ手術で切除しても再発の恐れがあります。また手術で無理に癒着を剥がそうとした場合に、腸管などを傷つけるリスクもあります。

チョコレート嚢腫の場合は、手術で健常な卵巣の一部も切除してしまうことになるため、その後、排卵機能が低下することも。排卵誘発剤を投与しても反応が鈍くなることがあるので、手術には慎重になったほうが良いでしょう。

子宮内膜症の原因は不明です

子宮内膜症の原因は、現在のところ判明していません。これほど多くの患者がいるにも関わらず、原因はまだ特定できていないのです。原因に関する研究は1920年から様々な研究者が行なってきました。月経が逆流するという説やダイオキシンの影響によるという説が有名です。

ダイオキシン説については、近年、WHOが否定しています。ただ、子宮内膜症患者のうち約30%に不妊が認められている、というデータはあるようです。

※参照元:公益社団法人日本産科婦人科学会公式サイト

https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=9